演劇大学生のあれやこれ

演劇を勉強する大学生です。

もう一度、青春ドラマを!ー劇団扉座『リボンの騎士ー県立鷲尾高校演劇部奮闘記2018』

劇団扉座第62回公演『リボンの騎士ー県立鷲尾高校演劇部奮闘記2018』

脚本・演出:横内謙介

原作:手塚治虫

 

舞台は女子ばかりの弱小演劇部、県立鷲尾高校演劇部。そんな部が一念発起して手塚治虫の漫画を部員自ら脚本化した「リボンの騎士」を上演することになる。
 超ストレートな王道青春ドラマであるが、高校生ならではの青春と恋愛、演劇部の日常と「リボンの騎士」の物語、そして主人公とリボンの騎士サファイア。2つの世界がシンクロし、ストーリーの厚みが増す。
 そんな現実と非現実の架け橋的存在となっている、ラッキィ池田と彩木エリによって振付されたダンスはシーンのつなぎで何度も登場し、時に華やかに、時にユニークに踊ってくれ、ダサダサ演劇部との対比としての役割も担っていた。
1番印象的だったのは最終場面。いよいよ「リボンの騎士」の公演が始まるとき。舞台上には「リボンの騎士」の舞台セットが置かれる。しかし、ただ置かれているのではない。セットの裏側が配置されているのだ。まるで自分も裏方として参加しているような気分になる。劇中劇を見る機会はあっても、公演中の裏側を見ることは滅多にないだろう。舞台上ではサファイア役の子が主人公だが、舞台裏の、この作品の主人公は明らかに「池田まゆみ」だった。
「池田まゆみ」(役)は本作の主演ではない。キャスト紹介の覧で1番最初に名前が載っているわけではない。しかし、私はこの作品の主人公はまゆみだと考えた。まず、演劇部が「リボンの騎士」をやるきっかけになり、脚本化したのはまゆみである。そしてサファイアと対となる存在として描かれているのもまゆみだからだ。
物語でも、現実世界でも裏方にスポットが当たることはない。しかし、舞台裏がこの作品の舞台となっているから『リボンの騎士-県立鷲尾高校演劇部奮闘記2018-』は「リボンの騎士」で主演を演じた子の、キャスト覧の1番上に名前が載っている男の子の、サファイアの物語ではない。まゆみの物語だと確信させたのだ。
そんな思春期真っ只中な女子高生、まゆみを演じた吉田美佳子の演技は観客の心を揺さぶるもので、忘れかけていた青春を思い出させてくれた。
 この先の人生、まゆみのように家族でもなんでもない人の為にこんなに頑張ることがあるのだろうか、とふと考えてしまった。自分だって主役を、サファイアをやりたかったのに、実際に演じるのは親友。そんな親友を裏で支えるなんてできるのだろうか。誰も見ていないのに、誰も賞賛の拍手はくれないのに頑張ることができるのか。
 「リボンの騎士」の最後、サファイアとフランツ王子が結ばれ二人に降りかかるはずの紙吹雪。でも実際はわざとまゆみに降りかかる。一緒に頑張ってくれた裏方の仲間はまゆみの努力を知っていた。頑張れば、報われるかは分からないけれど、誰かは絶対見てくれていて、評価してくれる。褒めてくれる。だから人は誰かのために頑張れるのだろう。そして誰かのために頑張ろう、そう思わせてくれる作品であった。